絆す炎 1


本当は、分かっている 自分を護っているのは ただ純粋な愛であることを その愛は 見返りなど求めてはいなかったのに 自分の弱さと ほんの少しの意地が 君に背を向けた 【 絆す炎 】  「すげえ音したなァ、だいじょぶか」 櫻 …

絆す炎 2


哉屋はL字形の建物で、通りに面した西側の棟が店、南側の棟が母屋になっている。 火元は、その家屋に二方を囲まれた蔵の一つだった。 菜種油が山と積んである哉屋の蔵は南と西を家屋に、北と東を塀に囲まれているが、いずれも距離が近 …

絆す炎 3


進之丞には、火はここで止まるという確信と、止められるという自信があった。 だから、纏を下げないまま炎を睨み据えて言った。  「水の手、用意せえ!」  「───紅寅さん!!」 誠の声が響いた。 下に居る仁太にも、煽られて大 …

絆す炎 4


 「おお、やっと来たか。長丁場やってんな。運んできた連中はもう帰したで」  「遅くなってすみません。先生、申介は…」  「右腕折っとった。落ちたときに頭も打ったみたいやが、もう気がついとるよ」 診療所はとっくに時間外では …

絆す炎 5


 「お、長いことかかったな……ってあんた、それ…」 肩から晒を巻かれた両腕を懐に入れ、上半身の分厚くなった進之丞の姿に、辰五郎が驚いて声を上げた。 皆の視線が、ひどく気遣わしげなものに変わっていく。  「強そうじゃろ?」 …

絆す炎 6


数多の男の冷たい手が、身体をまさぐる。 払いのけようと振った腕を掴まれて、床に縫いとめられる。 何の抵抗も出来ずに脚を開かれ、内股の傷を眺めるいくつもの目が淫らに歪んだ。  「…これが、ええんよな」 誰かが舌なめずりして …

絆す炎 7


 「多分これが、最後の機会なんや」 仁之助は男らしい太い眉を顰め、ぽつりと言った。  「最後…?」  「恥ずかしい話やが、あいつはもうウチではあかんのや。けどあのままあいつを放っておいたら、俺は太吉(たきち)さんに顔向け …

絆す炎 8


 「仁太って…申介さんに怪我させた奴やないんですか」  「うん。申介の替わりに使うてくれと言わはってな」  「替わりって…そんなの、申介さんは面白くないと思いますけど」 仁之助の倅仁太を預かると聞いて久馬と藤野が口々に言 …

絆す炎 9


 「野郎、どの面下げて此処へ来た!」 怒声を張り上げる巳之吉を、丑松が必死に留めていた。 太助に連れられてきた仁太は、意外にも言い返さずじっと巳之吉を睨みつけている。  「何とか言うたらどないや、ああ?」  「止めや、巳 …

絆す炎 10


 「あれ、紅寅さんは…」  「ああ、今日は帰らはったよ」  「あ、そうでしたか。…なんか降りそうな気配だけど、大丈夫かな」 誠が言ったのを聞いて、藤野は店の外を心配そうに窺った。  「…もう、来ます」 二人のすぐ横に居た …