Honey* 1


 「米の炊き方?」  「はい」  「紅寅さんが?」  「……ええ」  「ええー?」 嘉吉があまりに驚いたので、進之丞は困ったように苦笑した。  「そがん驚かんでも……」  「あの辺、惣菜屋とかもありまっしゃろ。もし飯に難 …

Honey* 2


 「鯛飯、でっか」  「難しいですか?」  「いや、飯と一緒に炊くだけやけど、下ごしらえが……包丁使うて、鱗とわた取らななりませんで」  「……あっ」  「えっ?」  「いや、腹ァ切った魚をそのまま出すなァ、ちょっと…… …

Honey* 3


 「なあに進之丞さん、ここんとこずっと外に行ってはる思うたら、今日はこないなとこでお弁当?」  「ああ、うん」  「私の作るご飯が口にあわへんの?」 台所の隅でひとり握り飯を食っている進之丞を見つけると、春子はそう言って …

Honey* 4


店の近くまで来て、こんなところに居る自分に嫌気がさした。 織部は縁あって、鶴屋の主人に娘の外出の護衛を頼まれただけかも知れない。 また織部はそういったことも気軽に引き受ける男だ。 腕を組んでいたというのは、亀吉の見間違い …

Honey* 5


 「その後、首尾はどうじゃ」  「ええ、鶴屋のお嬢さんが大層気に入ってくださって。馴染み客などにも試しで振る舞ってくれておるそうなんですが、評判は良いとのことです」  「ほうか。鶴屋で扱うてもらえれば、広く評判になるじゃ …

Honey* 6


 「あれ、紅寅さん今晩当番でしたっけ?」  「巳之吉が風邪気味じゃ言うけん、交替したんじゃ」 進之丞は久馬にそう言うと、雨印の書かれた提灯に火を入れた。 巳之吉は確かに二つほど続けてくしゃみをしたが、別に風邪気味というほ …

Honey* 7


最初は船場の菓子屋を、偵察のつもりで回っていた。 使いの振りをしてそれとなく蜂蜜はないかと話を振ってみるものの、蜂蜜は高価すぎて大坂では需要が少ないから取り扱わないという返答ばかりだった。 そんな中で唯一興味を示してくれ …

Honey* 8


その日、遅くはなったが織部は藩邸には泊まらず家路についた。 進之丞に仕事が上手くいったと報告したい気持ちもあったし、江波の言葉も聞かせてやりたかったが、何より自分が彼の顔を見たかった。 たかだか数日会えなかっただけなのに …

Honey* 9


進之丞は紅の襦袢を白に着替えると、台所から銚子と盃三つを取ってきた。 酒器は普段の晩酌に使っているものしかなかったが、自分たちにはこれで好い。 そこらへんに売っている銚子で、そこらへんに売っている盃に、そこらへんで買った …

Honey* 最終話


 「寅屋の皆さんがお揃いで菓子屋に来るなんて、お珍しいですな」  「紅寅さんから美味しい蜂蜜があるとお聞きして。こない大勢でごめんなさい」  「いえいえ、ようこそお運び下さいました。いやしかし噂には聞いとりましたが……雨 …