紫陽花 1


湿気を孕んだ重い空気が、からみつくような夕暮れだった。 傘屋以外はさっさと店じまいをしてしまった寂しい商家街の軒先でしばしの雨宿りをしていると、ふと向こうに人の気配を感じた。 湿気の中に微かに混じった香りで、女と分かった …

紫陽花 2


頭のてっぺんからつま先まで、しびれるような衝撃が走る。 その衝撃に目がくらみ、貴之介は思わず床に膝をついた。  「稽古中に気を抜くな、阿呆!」 右近の怒声が頭上に響き、一層くらくらする。 貴之介は目の前に散らばった星をか …

紫陽花 3


 「右近、ちと買い物に付き合うてくれんか」  「……またまんじゅうか」 寅屋に来るなりそんなことを言った貴之介に、右近はいささかうんざりした顔をした。 すると貴之介は、真っ赤になった顔をぶんぶんと横に振った。  「違う! …

紫陽花 最終話


貴之介は、進之丞に教えてもらった藤見堂で言われたとおり手鏡を一つ買った。 この南久太郎町から北は雨寅の管轄で、右近の店半纏を見た藤見堂の主人は最初からひどく愛想が良かった。 人への贈り物だと言うと、紫陽花の描かれたちりめ …