明治パラレル 1


 「───日光へは、行かないそうですね」 汗の引ききらない肌に紫煙がまとわりつくような不快感に、相馬は軽く顔を顰めつつ言った。  「今更何故、俺が芸州軍など率いねばならん」 その言葉に、世良は相馬以上に顔を顰めて吐き捨て …

明治パラレル 2


 「相馬進之丞?」  「そうだ、知ってるか。十九歳だそうだ」  「…そんな子供、ましてや芸州の者なら尚更知らん」  「なら、知っておくといい。あれはこの先、一軍を率いる将になるだろう」  「───おぬしにしては随分な褒め …

明治パラレル 3


 「はあ…」 相馬はその白い肢体をソファに沈めたまま、愛撫の余韻に深いため息をついた。 世良は家では相馬に一切触れず、いつも省内の自分の部屋で抱いた。 それで相馬は、毎日斜陽が部屋の中に長い影を落とす頃に世良の部屋を訪れ …

明治パラレル 4


 「───床ァ冷たいけん、嫌です」 床に組み伏せられて、いつも自分だけが裸にされることにいい加減腹を立てた相馬は珍しく世良に口答えをした。  「…そうか」 世良はそれだけ言うと、意外にも素直に身体を起こした。 そして床に …

明治パラレル 5


旧幕府の膝元であった江戸の残兵を掃討する上野の戦いは、新政府軍が勝利をおさめた。 新政府軍に属した相馬進之丞はこれが初陣となったが、その働きは彼を中央に連れてきた伊藤の予言したとおり、目覚ましいものがあった。 外郭だけで …

明治パラレル 6:相馬くんの出世1


 「宴だと?暢気なもんだ」 そう言って世良が顔をしかめるのへ、相馬は少し困ったような笑みを返した。  「まだ火種が───それもとびきり大きいのが残ってるっていうのに、余裕だな」  「や、あの…恐縮ですが、一応俺の昇任祝い …

明治パラレル 7:相馬くんの出世2


その日仕事が早く片付いた世良は、宴の時刻までまだ時間があったので一度家に戻った。 一旦脱いだ服に袖を通す気にならず久しぶりに和装で外出することにしたのだが、無意識に腰に刀を差してきた自分に家を出てから気がついた。 この手 …

明治パラレル 8:相馬くんの出世3


再び一人夜の東京の町に出た世良は、酒屋で一番高い酒と、それから相馬にひとつ祝いの品を買い求めた。 そこでふと煙草入れを忘れたことに気がついた。 無意識に刀は差してもこういったものは既に身につかなくなっているのかと我ながら …

明治パラレル 9:相馬くんの出世4


初めて目にした氷雨の剣は噂に聞いていた以上に速く鮮やかで、そしてその刃以上に、男の目は冷たかった。 返り血の一滴も浴びていないのにその姿が紅く染まって見えるのは、久しぶりに振るったその刀が、数多の人の血を吸ってきたからな …