紅葉はらはら 11


 「…どがぁした、何かあったんか」 先に家に帰っていた織部は、帰るなり台所に直行し顔を洗っていた進之丞を見て問いかけた。 もう寝ているだろうと思っていた進之丞は吃驚して、小さく飛び上がった。  「まだ、起きておったんか」 …

紅葉はらはら 12


秋の夕暮れは早い。 釣瓶落としに沈んでいく陽は、背の高い織部の影を一層長く地面に映している。 ほんの少し前までは、この刻限になるとほとんど目が見えなくなっていたことを思い出す。 織部は、今は当たり前のように目が見えること …

紅葉はらはら 13


 「何事だ、控えよ」 襖の向こうから覗いた目つきの鋭い侍を、村田が慌てて諌めた。 織部は襖越しの殺気の正体とその居住まいを見て、剣の遣い手、それも相当出来る者と感じた。 その視線を察したのか相手は織部を睨むように一瞥して …

紅葉はらはら 14


 「織部。…成り行きとはいえ、他藩のそなたに手数を掛けてしまった。───すまなかった」 庭から戻り自分の前に座した織部に、慶晴は頭こそ下げなかったが神妙な面持ちで詫びを述べた。  「いえ。確かに成り行きではございましたが …

紅葉はらはら 15


翌日の朝稽古中に、櫻井が多聞を連れて京町橋へやって来た。 織部は道場を貴之介と進之丞に任せ、二人を客間に誘って自ら茶を煎れた。  「こりゃァ先生お手ずから、すまねぇな」 櫻井はぺこりと頭を下げると、暖を取るように湯飲みを …

紅葉はらはら 16


 「…美味しい!」 ただの白飯を一口頬張って、葉ははしゃいだ声を上げた。  「うん、これは旨いな。…女将さん、おかわりを頼めますか」 その横で慶晴は既に一杯目の飯を平らげ、くだけた物言いで春子へ茶碗を差し出した。 紀州の …

紅葉はらはら 最終話


織部は一人駕籠の先へ出ると、番小屋に声を掛けて門を開けさせた。 駕籠から降りた慶晴と葉、そして徒歩で付いてきた者たちも続いて門をくぐって、目の前に広がる光景に思わず声を上げた。  「…こりゃァ、壮観だなあ」 櫻井の感嘆の …