少年たちの宝船 1
目の前をはらりと、白いものが舞った。 進之丞は襷を外しながら薄く灰色に塗り込められた空を見上げ、ため息をついた。 「…降ってきた」 その呟きを横で聞いていた織部は、追って空を見上げ声を上げた。 「わあ、雪じゃ」 その …
目の前をはらりと、白いものが舞った。 進之丞は襷を外しながら薄く灰色に塗り込められた空を見上げ、ため息をついた。 「…降ってきた」 その呟きを横で聞いていた織部は、追って空を見上げ声を上げた。 「わあ、雪じゃ」 その …
「ちぃとお待ち下され」 そう声を掛けたが、小姓連中は肩越しにちらと視線を寄越しただけで足を止めなかった。 「…待てと言っている」 織部は強い口調で言って、一番年長の小姓の腕を掴んだ。 非力な青びょうたんの年長小姓は、 …
悪いことに、雪は止んでいた。 降っていれば頭を隠せたのに…と思いながら、三人は既に雪が解けてぬかるんだ道を神妙に城門へ向かった。 「お先に失礼いたします。…良いお年をお迎え下さい」 ぺこりと頭を下げて行き過ぎようとした …
「ほう、除夜の鐘をお撞きになりたいとな」 これから除夜の鐘、そして元日の初詣を控えて寺も準備に忙しい。 しかしこの寺の住職はかつて浅田家の菩提寺に居た者で、世子長徳の来訪に自ら応対に出て一行を本堂に招き入れてくれた。 …
師走の世良家は忙しくも賑やかで、大晦日に至っては既に飾り付けも済み、玄関も綺麗に掃き清められている。 一方相馬家は父と子の二人暮らしのため、そこまで丁寧な正月の準備は出来ない。 それでも元日は家にいる父と二人で過ごせるの …
「あの寺、あれから毎年参詣客にも鐘を撞かせるようになったんよな」 「うん。…いつか遠い先の世には、長徳様が撞いた鐘じゃと由来が書かれたりするんじゃろうかな」 進之丞はそう言って、良く晴れた正月の空を見上げて笑った。 …