「分かった。そういうことなら、全部俺の所為でええ。───じゃが、詫びは言わぬぞ」
 「へっ?」

思いがけない一言に、進之丞ははっと織部を見上げた。
織部の目は既に険しさを拭い、いつもの冷静さを取り戻している。
それに気づいた途端に水を掛けられたかのように頭が冷え、同時に、自分が重大な失言をしたことにも気がついた。
 「あ……わ、悪かった。さすがに言い過ぎ───」
 「お前の詫びも、もう要らん」
織部は進之丞の言葉を遮って言うと、さっき打ってしまった額をそっと撫でた。
 「ちぃと、紅くなってしもたな」
 「…………」
その大きな手の優しさにどうにも居た堪れなくなった進之丞は、畳に両肘を付いて半ば無理矢理に上半身を起こした。
 「だ、大丈夫じゃけ……その、とりあえず退いてくれんか」
 「ああ」
進之丞が起き上がってしまったので、織部は仕方なく身体を退けた。
やっと解放された進之丞は逃げるように立ち上がると、堪らず織部に背を向けた。

折角謝ったのに、また感情的になって『全部お前が悪い』などと一方的な事を言ってしまった。
しかも先に冷静になった織部に詫びはもういいとまで言われてしまって、バツの悪いことこの上ない。
(阿呆は、俺じゃ)
自分の愚かさに、思わず唇を噛んだ──その時だった。

 「ほな、そろそろ仲直りとやらをしようか」

その声に我に返ると、いつの間にか立ち上がっていた織部がすぐ後ろに居た。
織部はすかさず、振り向こうとした進之丞を後ろから抱きすくめるようにして壁際へ追いつめた。
壁に片手を付き、もう片方の手で進之丞の腰を抱いて、その耳元へ囁く。
 「それを、期待しとったんじゃろう?」
 「き、期待して、なんか……」
 「違うのか?」
織部は言いながら腰を抱く手に力を込め、自分の腰をきつく押し当てた。
尻に当たる硬い感触に、進之丞はびくりと身体を揺らした。
 「ちょっ───お前、なんでもうこがんなって、」
 「そら、四日ぶりに会うてあがなこと言われたらな」
 「あがなこと……?」
進之丞は聞き返したが、織部は答える代わりに黒い着物と紅い襦袢の後裾を大きく捲り上げた。
露わになった白い脚の間に膝を割り入れ、太腿でぐいと尻を押し上げる。
 「あっ!やっ、」
 「喧嘩の後の仲直りは、燃えるんじゃろ?」
 「そっ、それァ蛇の目のおっさんが言うたんじゃ」
 「ほいで、こがん顔紅うしたんか。気に入らんのう」
織部は自分の脚の上に乗せた白い尻を掌で包むように撫で回すと、その手を腰骨から内股へと滑らせた。
四日ぶりの織部の手の感触に、進之丞は思わず深いため息をついた。
 「あ……はあ、っ」
 「往来で、真っ昼間っから、他の男の前でこがん顔を……」
 「んっ、じゃけ、それは」
 「俺の所為なんじゃろう?」
 「ちが、……言いすぎたと、言うたじゃ、なぁんか」
進之丞は小さく眉を顰めて、横目に織部を睨んだ。
けれどいつになく意地の悪い言葉と性急なその手に、身体はもう火が点いている。
その熱を感じた織部は、内股をゆるく撫でていた手を下帯の中に差し入れた。
 「お前、そんなんで済むと思うなよ」
織部は怒ったように言うと、容赦なく進之丞自身に触れた。
その先端をなぞった指先が、熱く濡れる。
 「ひぁ、ん」
 「まだ触ってもおらんのに、もうこがん濡らして……これも、俺の所為か」
 「!」
 「困った奴じゃな」
小さく本音を零しつつ、溢れてくる雫を掬うように指先を擦り付ける。
一番感じるところを執拗に弄くられて、進之丞はがくがくと脚を震わせた。
 「んや……!あ、んぁ、やあ……っ、ふぁ、ん、」
 「けど全部、俺の所為なんよな?」
 「し、つこい、……っ、根に持って、んのかよ、」
そう聞くと、織部は黙って小さく笑った。
四日ぶりに見た織部の笑顔は、やっぱり少し意地悪かった。

 「こっち、向け」
織部は進之丞の両手を掴んでその身体を反転させると、そのまま万歳をさせた形で壁に縫い止めて、上から下まで舐めるように見遣った。
大きくはだけた黒と紅の間に白い肌が首から腹まで見えて、下帯の膨らみと内股の傷までがすっかり露わになっている。
 「ひどい有様じゃな」
 「……誰の所為じゃと、」
 「俺の所為じゃろ」
 「──お前、さっきから一体何が言いたいんよ」
進之丞はうっすら汗ばんだ顔を顰め、執拗に『俺の所為』と繰り返す織部を見上げた。
その間も、無防備に晒した肌を犯すように見つめてくる視線に身体が疼く。
 「お前にしては、察しの悪いことじゃな」
 「な、んじゃと?」
 「全部俺の所為にしてええと、言うたろう」
織部は片手を壁から離すと、進之丞の薄い唇につと中指を這わせた。
硬い指先が優しく柔らかく、上唇を一撫でする。
 「ん、はぁ……」
たったそれだけの愛撫に、進之丞は全身が粟立つのを感じながら甘いため息を零した。
万太郎に同じようなことをされたときは───彼の方が明らかに手慣れているはずなのに、こんな風に感じたりはしなかった。

(ああ、そういうことか……)

暗い興奮と、あからさまな情欲を含んだ目。
自分に向けられるこうした目を見るたび、心は冷え頭は醒めた。
けれど織部のその目は容赦無く自分を煽り、興奮を高め、悦びさえ感じさせてくれる。
指先で触れるか触れないか、そんなささやかな感触にですら腰が抜けそうになるほどに。

織部より色事に長けた男はたくさん居たし、万太郎に言われたとおり自分自身もそうだと思う。
だけど自分に触れる時の彼の目や言葉や手は、そんな自分をいつも身も世もないほど狂わせる。
平素の世良織部という侍を知る人は、彼がそれほどに甘く激しい男だとは思いもしないだろう。

彼がその一面を見せるのは、自分にだけだから。
そして織部をそんな男にしたのは、自分だ。


 「……随分と、色っぽいことを言うようになったのう」
進之丞は目の端で小さく笑むと、唇を這う指先を甘く噛んだ。
 「えっ」
 「けど、そがぁ口をきくんは、俺にだけにしとけよ」
言いながら長い指の根元へ舌を這わせ、口に含み、歯で噛んで、音を立てて吸う。
その様子をうっとりと眺めている織部を上目遣いに見つめ返して、誘うように、強請るように、笑って見せた。
 「なあ。俺いま、どがあ顔してる?」
 「……ぶち、やらしい顔しとる」
 「困る?」
進之丞は指を舐りながら訊いて、膝で織部の裾を割った。
さっきの仕返しと言わんばかりにその硬い熱に太腿を押し当てると、織部はぐいと腰を寄せてきて言った。
 「お前もそれを俺にだけ見せてくれるんなら、別に困りゃァせん」
 「俺にこがん顔をさせるなァ、お前だけよ」
そう言って、自由になった片手で織部の髻を解く。
やっと肩まで伸びたまっすぐな髪がはらりと落ちて、その間から物言いたげな目が覗いた。
それを見て進之丞はくすりと笑い、織部の衿を開くようにしてその胸に指を這わせた。
 「俺なあ、他人からお前の名を聞くだけで、この肌やら指やらを思い出して身体が熱うなるのよ」
 「!」
 「喧嘩の後の仲直りは燃えるとか言われて、期待どころかすぐにも抱かれとうて堪らんなった。じゃけぇあん時は、それが顔に出たんじゃろ」
 「……ほうか。なるほど俺の所為じゃな」
織部は切なげに眉を寄せ熱い吐息を零しつつ苦笑すると、進之丞の唾液に濡れた指で硬く尖った乳首を摘まんだ。
 「んっ、」
 「こがんあちこち硬うしてんのも、」
 「ほう、よ、お前の所為よ。──なんもかも、俺をこがぁに惚れさした、お前が悪い」
 「……そう来たか」
織部は困ったように笑って、その薄い唇に今日初めて口づけた。
すぐに応えてきた進之丞の舌を絡め取って激しく吸い、零れる喘ぎを拾うように何度も唇を重ね直す。
そうして進之丞を壁に押しつけながら、両手を背へ回して帯と下帯を解いた。
進之丞もまた解放された両手で同じように織部の帯を解くと、はらりと緩んだ前の合わせに手を入れ肩を脱がした。
促されるようにして袖を抜いた織部の、露わになった一糸纏わぬ逞しい肉体に否応なく興奮する。

 「ああ……早う、犯して、織部」
解いた髪へ指を差し入れ、そのまま首に腕を絡めながら、進之丞は堪りかねたように強請った。
織部は頷いて進之丞の片脚を抱え上げると、そこに屹立する熱の先端から根元へと優しく指を這わせた。
そして充分に湿らせた指先で、四日ぶりの身体を少しずつ拓いていく。
 「んっ……はぁ、ん、」
進之丞が大きく息を吐いたところで、織部は一息に指を深く突き入れた。
物欲しそうに震える進之丞自身の根元を手根で擦ってやりながら、硬く張り詰めた自身をその肌にきつく押し当てる。
 「ふぅ、んっ……はあ、織部、も……いい、───来て」
 「…………」
しかし織部はその懇願を黙殺し、指を大きく激しく出し入れしてわざと淫猥な音を立てた。
ぐちゅぐちゅと掻き回す指を無意識に締め付けながら、進之丞は激しく喘いだ。
 「やぁ、っ、……はあ、んッ」
 「ああ、ええ顔じゃな」
苦しげに鳴く進之丞の顔を見て、織部は嬉しそうに口元を歪めた。
 「こ、れ……呉れたら、もっとええ顔、見られるぞ」
進之丞は首に回していた手を解くと、腿に押しつけられた織部自身をいきなり激しく扱いた。
 「じゃけ、……んっ、早よ、挿れろ」
 「っ……お前はホンマに、ひどい奴じゃな」
強い誘惑を込めた視線と激しい愛撫に、織部は眉を寄せながら本音を零した。

お前が好きだから、でもなく
惚れたお前が悪い、でもなく
惚れさせたお前が悪い、だなんて。

四日のあいだ溜めに溜めた嫉妬やら怒りやらに、熨斗を付けて返されたような気分だ。
しかもそんなことを言った口で犯してなどと強請り、追いつめられた顔をしてこっちを追いつめて来るなんて。
───なんて酷くて、狡くて、可愛いひとなのか。


ひどい奴、と言われた進之丞は、雫を零している織部の熱の先端へ焦らすように指先を這わせて笑った。
 「その気に、なった?」
 「……何を言う」
織部は余裕なく答えると、進之丞の中から静かに指を引き抜いた。
 「っあ、」
 「俺が最初からその気なのは、分かっておったろうが」
その刺激に背中を反らした進之丞を強く抱きかかえて、柔らかくしたそこへ自身を押し当てる。
急くように奥へと誘う悩ましい蠢きに堪えつつ、ゆっくりと張り詰めた熱を埋めていく。
 「は……その割りに、随分と、意地の悪いことしてくれた、じゃなぁんか……」
 「俺は四日の間、一人嫉妬に胸を焼いて居ったんじゃ。それくらい許してくれたってええじゃろう」
正直な恨み言を言いながら、織部は全てを進之丞の中へ収めた。
ゆるりと腰を動かすと進之丞もまたその動きに合わせて腰を揺らし、焦れったそうに喘いだ。
 「あ、あ……も、そがん、焦らさん、で……もっと奥、突いて、───大丈夫、じゃけ」
 「……そう、急かすな」
織部は小さく眉を顰めて苦笑すると、欲深い身体を強く抱き寄せた。
 「!っア、」
 「俺の方が、大丈夫じゃないんじゃ」
深いため息をついて、堪りかねたように強く突き上げる。
 「ああっ、ぅん……はあっ、いい、───ん、あっ」
進之丞は激しく揺さぶられながら織部の肩にかじりつき、あられもなく声をあげた。

互いにこれほど煽り煽られ、立ったまま身体を繋ぐなど初めてのことだった。
四日ぶりに受け入れた織部はいつもより熱く、荒っぽい。
けれどそんな風に求められて、自分の肌もまた燃えるように熱かった。

 「顔、見せてみい」
織部は進之丞の顎を掴んでぐいと身体を離すと、汗に濡れたその顔を覗き込んだ。
涙を浮かべ紅く染まった目は一層強い色気を放ち、ぼんやりと悩ましく自分を見つめている。
今この腕の中に居るのは確かに、他の誰も知ることがない自分だけの彼だった。
 「ああ……この顔が、見たかった」
織部はぞくりと身を震わせて、興奮を押し殺したような声で言った。
その途端中に居る織部の質量が増して、進之丞は驚いたように悲鳴を上げた。
 「ふっ、あ……!」
 「堪らんな」
切なげに歪めた紅い顔を眺め、織部は頬を伝う汗を舌先で舐めながら笑った。
欲望剥き出しのその表情に、進之丞は興奮を高めつつ自分も笑って見せた。
自分の所為でこの男にこんな悪い顔をさせているのかと思うと、自分の方が堪らない。
 「……うれしいか?」
 「うん」
織部は頷くと、進之丞の脚を押し上げて腰を引いた。
引き抜かれる感覚に、進之丞はびくりと身体を竦めて顔を顰めた。

 「えっ……ちょっ、なに、」
 「そん顔見て、満足したけん」
戸惑う進之丞に構わず、織部はその身体から出た。
 「嘘じゃろ、……いやや、こがんとこで止めんでよ」
 「誰が止めると言うた。壁に手、ついて」
織部は文句を言った進之丞の腰を掴んで反転させると、後ろから抱きすくめた。
拓かれた身体はすんなりと再び織部を受け入れて、大きく撓った。
 「こっちのが、楽じゃろ?」
 「んっ、うん……あっ、」
 「ごめんな。顔が見たいばかりにちと無理をさせた」
後ろから労るように進之丞の髪を撫で、その手で目の前の白い背を撫で下ろす。
驚いたように揺れた背中が伸びたところへ、織部はより深く腰を沈めた。
 「は、ぅっ……あぁ、ん、」
 「ああ、……」
織部は切なげにため息を零すと、片手を前に回して熱い進之丞自身を掌に収めた。
容赦無く突き上げながら、とろけそうな熱を強く握りしめる。
 「あァ、んっ……!好い、織部、きもち、い、ぁ、いく」
 「っ、俺も───もう、いく……」
嬌声を上げた進之丞に強く締め付けられて、織部は掠れた声で呟いた。
その声に進之丞は一層煽られながら、自分の熱を握る織部の手を上から押さえた。
 「いい、いって、中に、出して───俺を、離さんで」
 「ふ、っ……」
 「っあ、いぁ───あァあ、ッ……」
進之丞は片手で壁に縋り付きながら、自分の中に放たれる織部の熱い精を受け止めた。
悦びに満たされた腰が震え、もう片方の手から自分の精が溢れる。
進之丞は自分の腰を抱える織部の腕に体重を預けて、大きくひとつ身震いをした。
解放を求めて限界まで張り詰めた全身の力が、潮が引くように抜けていく。

 「は、ぁ……」
進之丞はまだ自分の中で脈打つ織部を感じながら、自分もまた絶頂の余韻に強い鼓動を繰り返した。
手に受け止めた精が零れて、畳を濡らす。
 「あ、」
 「ええよ、俺がする。ちと、このままで居て」
織部は進之丞の横顔に口づけて言うと、ゆっくりとその身体の中から出た。
さっき脱ぎ捨てた着物と一緒に床に落とした懐紙を拾い、畳と、中から流れ出た自分の精に濡れた進之丞の脚を拭ってやる。
そうして後始末をしてから、素直に壁に凭れて待って居た進之丞を後ろから抱きかかえ、そっと床に下ろした。

 「はあ……」
やっと全ての力を手放すことを許された白い身体が、ため息と共に解ける。
織部は布団を敷き延べながら、四肢を投げ出している進之丞に聞いた。
 「燃えたか?」
 「……そがなん、聞かんでも分かるじゃろ」
 「まあな」
織部は苦笑しつつ進之丞を黒と紅の中から抱え上げ、布団の上へ下ろした。
自分もその横に寝転びながら、肘枕をついてその顔を覗き込む。
 「ほしたら、一日置きに喧嘩と仲直りを繰り返そうか」
 「やだよ、冗談じゃない」
 「なしてね。仲直り、好かったんじゃろ?」
 「お前怒るとホンマおっかないもん。……それに別に喧嘩なんかせんだって、いっつも好えし」
進之丞はかすかに顔を赤らめながら、最後は取って付けたように言った。
 「そら、えかった。喧嘩のあとじゃないと満足せんと言われたら、どがあしようか思うてた」
 「お前は、どうなのよ」
 「うん?」
 「燃えたか、って聞いてる」
 「それこそ、俺が言わんでもお前の方が良う分かっとろう」
そう言って、織部はすっかり乱れて落ちた進之丞の黒い前髪を指ですくいながら苦笑した。

 「じゃが喧嘩の後だからちゅう訳でもないし、お前の所為でもない」
 「……また手前の所為と言うつもりか。ええ加減、しつこいぞ」
その言葉尻をさんざんに捉えられた進之丞は、赤い顔を苦々しく顰めた。
 「俺は誰かさんと違うて、お前に惚れとる自分を潔う認めてるだけじゃ」
 「えっ」
驚いたように目を丸くした進之丞に、織部は怪訝な顔をした。
 「なんじゃ、驚いた顔して」
 「……いや、別に」
 「まさか、忘れておったのか?」
 「そ、そがん訳あるか。ただその……今のはちぃと、不意打ちじゃったけぇ……」
進之丞はぼそぼそと言いながら耳まで赤くして、とうとう顔を伏せた。
その反応に、織部は小さく目を瞠ったあとで、ははは、と声を上げて笑った。

人を一方的に悪者にして、言葉と、表情と、仕草でさんざん煽ったくせに。
それなのに、こんな分かりきった、今更と言えば今更な一言に顔を赤らめるなんて。
しかも彼がこんな顔をするのは、『惚れさせた自分の所為』なのだ。

 「なにがそがん可笑しいんよ」
 「いや、お前はホンマ、狡い奴じゃと思うてなあ。敵わんわ」
 「な……」
ひどいの次はずるいと言われて思わず顔を上げた進之丞を、織部は目を細めて見つめた。
 「惚れた、じゃァのうて、惚れさせられたと言われちゃァお前、何も言えんじゃろうが」
 「……!」
 「そがん言葉を計算尽くじゃなく本音で言う奴は、狡いと思わんか」
 「……ごめん。確かに、狡いな」
進之丞は、感情に任せて吐いた己の本音の身勝手さに、今更ながら恥じ入った。
 「ああ、狡い。───けど、可愛いて堪らん」
再び腕の中へ潜り込もうとした顔を捉えて、織部は言った。

 「……好きよ、進之丞」

身悶えするほど。

 「好き」

憎たらしいほど。

 「愛してる」

出来ればこのままこの腕の中に一生閉じこめて、誰の目にも触れさせたくないほど。

 「進……」
 「わ、かった、なんべんも言うな」
進之丞はこれ以上ないほど顔を赤くして、織部の口を手で塞いだ。
織部はその手を掴んでぐいと引き寄せると、耳元に唇を寄せた。
 「まだ、四日分に足らん。黙って聞いとけ」
 「…………」
織部が、好きだとか愛してるとか言うのは別に珍しいことではない。
それなのに、耳元で繰り返されるそれらの言葉に、さっきの激しい絶頂よりも気が狂いそうになる。
 「も……勘弁、してけぇよ」
 「あかん、もっと思い知れ。折角の仲直りじゃけん、二度と喧嘩する気など起きんようなるまで言うぞ」
 「それは、俺が?お前が?」
 「お互いに」
織部は楽しそうに笑って言うと、進之丞に覆い被さった。
少し冷めた互いの素肌を、互いの体温で温め直すようにきつく抱く。
背中を撫でるその手の優しさに、進之丞は湿ったため息を零した。

 「……敵わんなァ、俺の方じゃ」
 「えっ」
 「そがあなこと、もう充分思い知ってるはずなのにな。お前に言われたとおり、俺は物覚えが悪いんかも知れん」

自分に対しては毛ほども本心を飾らない織部の言葉の前には、いつだって敵わない。
そしてそのことを思い知る度に、互いが思う以上の互いの想いの強さを知る。
狡くて欲深くて、本当はとても身勝手な自分の想いと、それを受け止めて同じほど、いやそれ以上を返してくれる彼の想いを───

 「じゃけ、言葉だけじゃのうて、身体にも思い知らせてけぇよ」
 「…………」
 「喧嘩しそうになったら、その前に勃ってしまうくらいに」
 「……そがんしたら喧嘩が楽しみになってしまうじゃなぁんか」
 「そうなったらお前、そらもう喧嘩じゃないじゃろ。そっからは『ただの楽しみ』じゃ」
 「そうか」
 「そうよ」
進之丞は小さく笑って、織部の背を抱きしめ返した。
思い知らせてとせがんだ身体は既に火が点いて、一層強く、熱く織部を求めた。

喧嘩の後の仲直りが、万太郎の言った通りだったのが少々癪ではある。
けれど自分も織部もその仲直りを愉しむために喧嘩出来るほど器用ではないし、一緒に暮らしていれば些細な言い合いや、時には深刻にすれ違うことだってある。
それでもその時は、きっと互いに今夜の仲直りの仕方を思い出すだろう。

そしてそれは多分織部より自分の方が先に違いないと、今度は焦れるほど優しく抱かれながら進之丞は思った。
*挿絵
「仲直りの仕方」3